成都・重慶6: 重慶その2 |
3月16日、8時半ごろ起床。ホテルは安普請のせいか、周囲の騒音が漏れて、熟睡というわけにはいかず、断続的に数時間ずつ眠った感じだ。部屋は表通りの渝白路の反対側だが、それでも交通量が激しく、朝からうるさい。覚悟していたことなので仕方ない。
9時半ごろ出かける。洗濯物が溜まったので、ホテルのフロントで洗濯をできるかとジェスチャー混じりの英語で聞くと、女性スタッフが「ここではできない、外に洗濯屋があるからそこに行け」という趣旨の中国語をしゃべってくる。筆談で「店名称?」と聞くと、店の名前を書いてくれて「five minutes」とだけ英語で言ってくれた。指さされた渝白路の方向へ歩くが、要領を得ない。昨晩の洪崖洞の入り口にさしかかってスターバックスを見つけたので、コーヒーが飲みたかったのでそこにひとまず入って朝食。レギュラーコーヒー17元とハムエッグ・パニニ26元を注文。やはり重慶もスタバは高い。昨晩も来た洪崖洞の展望広場に行くと、対岸が良く見える。すぐ眼下に嘉陵江を渡す新しい鉄橋(上が道路で下が列車)があり、軌道交通6号線が走っている(写真)。この6号線は小什字駅を経由して、反対側の長江を渡す、これも新しくできた鉄橋(後述)につながっている。
10時半頃、ホテルのフロントに戻り、今度は大まかな地図を描いて、洗濯屋はどっちの方向のどのあたりか教えてもらおうとするが、斜め向かいの梯子(階段)を登れという程度しか理解できなかった。その階段を登って臨江支路沿いに出ると、教えてもらったのとは違う名前の近代的なドライクリーニング屋を見つけ、そこに入った。ところが値段がホテル並みに高いのでやめ、その奥の裏路地に入っていくと庶民的な商店が並んでいて、その中に2軒、洗濯屋を見つけた。ホテルで教えてもらったのとはまた違う名前だが、「張裁縫干洗」という看板の店のおじさんが、目ざとく筆者の洗濯物を指さして手招きする。値段を聞くと、店頭に貼ってある価格表を指さしながら、下着上下6点で90元、ソックスやハンカチはサービスするという趣旨のことを言うのでここに決める。おじさんの「サービスする」という手を振るジェスチャーが、洗濯できないと言っているのと誤解し、完全に理解するのに1分かかった。仕上がり時間は「明天12時XXX」と書いてくれたので、今日中には仕上がらないようだ。
着替えの下着が切れたので、天府井百貨店に買い物に行く。幸い、ホテルから至近距離に王府井百貨店の入り口があり、そこの同じ階がスーパーになっていた。日用品をいろいろ売っていて、下着もあった。パンツ2着セットで45元、靴下が1足9元とリーズナブルだ。ついでにコークスクリュー付き栓抜き15元と、ドイツ缶ビールBitburger15元も購入。1人旅のオッサンには便利なスーパーだ。一旦ホテルの部屋に買い物を置きに帰り、再び出かける。
今日は嘉陵江と長江が出会う、渝中区の半島部分の突端にある朝天門広場を見てから長江沿いを散策する。軌道交通1号線が朝門天広場まで伸びているものと勘違いし、小什字駅まで歩いて改札まで降りていくと、まだ建設中だった。また地上に上がり、新華路を北方向へ突き当たるまで、下りの坂道を歩く。新華路のこのあたりは路上の衣服卸市場みたいになっている箇所があり、巨大なズタ袋が歩道に並んでいた(写真)。新華路は途中から開発工事中のためブロックされていて、強制的に東方向へ曲がらせられる。陜西路、朝東路を横切り、また坂を降りて長江濱江路に出る。そこから改めて北へ回りこむ。朝天門広場はここからしかアクセスできないようだ。それにしても、小什字駅からかなり長い下りの坂道を降りて、さらに下り坂を降りてようやく長江が見られる道路に出る。渝中区は切り立った崖上の狭い土地に造られた街であることを改めて認識する。
朝天門広場へ至る長江濱江路沿いには土産物の露店が並び、夜に営業する両江遊覧の呼び込みが何人も声を掛けてくる。100元以上の料金らしいから、客獲得に熱心なのだろう。長江沿いの複数の桟橋に大きな観光船が何隻も停泊しているのが見える。呼び込みを無視しつつ半島の突端を目指す。ホテルから結局2kmほど歩いてようやく埠頭の突端に到着。遊覧観光の切符販売人がやたら目立つが(写真)、後方に階段があり、そこを登ると見晴しのいい展望スペースがあり、そこからは2つの河が交わる地点がよく見え、なかなか雄大だ(写真)。嘉陵江側には線路が坂道を下って河に浸る部分が見える。貨物列車がここから貨物を積み出せる構造になっているのだが、現在も現役で利用されているのかどうかは不明。
その展望スペースからさらに上に登る階段があり、そこを登ると、ようやくそこが朝門天広場だった。ここでも渝中区が崖の上にできた街なのだと再認識。その広場から南方向に、造成中の巨大なむき出しの穴地が見える(写真)。来福士広場(Raffles Plaza)という名前の商業地区を開発しているようだ。朝門天広場から埠頭までの5階分ほどのスペースに、重慶市規画展覧館が造られている。重慶市の開発計画を丁寧に紹介しているらしい(『歩き方』が、あいにく月曜日で閉館していた。
朝天門広場から長江濱江路沿いの歩道を南方向へ1km強歩くと、軌道交通6号線が渝中区から長江を渡って南岸区へ通る鉄橋をくぐる。そのほぼ真下に湖広会館と呼ばれる建築群がある。17~18世紀の清の時代に建設が始まり、20世紀初頭まで建設が続けられた、同郷出身者が集まる出先事務所のような場所だったという(『歩き方』)。しかし、筆者が訪問したときは改装中なのかわからないが、閉鎖されていて、建物の中には入れなかった。ともあれ、大きな橋と道路に包囲されたような格好なので、せっかくの歴史建造物が居心地悪そうな印象だった。
次の目標は長江を渡す索道(ケーブルカー)に乗ること。湖広会館から頭上斜め南方向にケーブルが見えるので、ケーブルカーの入り口がある新華路に出られる坂道があれば近そうなのだが、試行錯誤の結果、そういうルートはないことがわかった。長江濱江路に戻って、運よく流しのタクシーがつかまり、索道乗り口に近そうな軌道交通1号線の小什字駅へ行ってくれ、と運転手に筆談する。タクシーは長江濱江路を一旦南西方向へ走り、右折して複雑なルートで坂道を上がる。最後は偶然、「長江索動」という看板と軌道交通の出入り口が重なっている地点で降ろしてもらった。運賃は12元。自力で歩こうとしたら非常に複雑で疲れそうなルートだったので、タクシーで正解だった。
すでに13時半で、結構歩いたので空腹。ところがこの長江索道乗り場付近の新華路は電気製品専門店が並ぶ秋葉原のような地区で、美食街らしきものは皆無。ウロウロ歩いたが諦め、索道乗り場のすぐ近くに一軒だけ「天香悦 特色牛肉面」という看板の小吃屋があったので、路上にプラスチック椅子が並ぶほど混んでいたが、そこで腹ごしらえをすることにした。漢字の看板メニューを指さしながら、「ビーフ、Mien」と英語と片言中国語を混ぜて話したら、理解してくれた。昨日昼食べたのと同じ牛肉面だが、ここはスープがさらに辛く、香りもきつい(写真)。看板通りの麺だ。あまりにも辛いので、店の奥に展示しているペプシのペットボトルをつかみ、舌のしびれを和らげる。まあ、うまかった。泊まっているホテルも入り口では周辺の食堂からの強烈な香りが漂っていて、辛い香りのサーフィンをしているような気分だ。体力消耗にさえ気をつければ、こういうのは楽しい。
14時ごろ、索道に乗る。往復20元でプラスチック製のICカードを2枚もらい、改札は軌道交通に乗るのと同じ方式。エレベータで塔を昇り、発着場へ。タイミングよく対岸からの車両が着いたところで、すぐに乗車できた。大河を渡すロープウェイに乗るのは初めてで興奮する。発車すると結構なスピードを出す。車両が古そうでやや怖い気もするが、開いた窓を吹き抜ける風が涼しくて気持ちいい。長江の真上から見る景色は素晴らしい(写真)。乗車時間はほんの5分ほどで対岸に着く。それでもこれまで経験したスリルある乗り物の中でも5本の指に入りそうだ。若いカップルにお勧めのデートコースだ。
索道で着いた南岸区の箇所は周囲がまだ開発中の様子だったので、長居しないほうがよいと判断し、すぐ次の索道に乗って渝中区へ引き返す。帰りに見た渝中区の長江沿いには古そうな高層アパートが林立し、どれも部屋は狭そうだ。洗濯物がベランダに出ている風景はまさに香港に似ている(写真)。
長江索道のあとは新華路を南西に下り(そう、また坂道なのだ)、鄒容路を西へ折れる。その先に解放碑が見える。この鄒容路が八一路と交差するあたりからは平日でも歩行者天国だ。つまり、解放碑を中心に300m四方が年中歩行者天国のショッピング・飲み食い街ということか。
16時前、ホテルに戻る。午前に買ったドイツビールで一息。やはりビールはヨーロッパものがうまい。
19時前、昼間に歩いた辺りで見た両江旅遊船のどれかを利用し、長江の夜景を見に行こうと思う。しかし、ホテルの前もその周辺も流しのタクシーを見かけない。平日のこの時間帯のこの地域では客の需要は短距離と予想して他に回っているのだろうか。タクシー代が安いせいで需要が供給を上回っているのに違いない。仕方ないので、タクシーの可能性を諦め、午前に朝天門まで歩いたルートをほぼ辿って歩くことにする。昼間と比べて夕方は涼しいので多少歩きやすい。ただし、今回は新華路の途中で小さい路地を東に折れ、陜西路に早めに出る。そこから北へ歩き、工事中のブロック箇所に突き当たってから東へ右折し、朝東路を横切り、長江濱江路に出た。ほぼ下り坂だったのでそんなにきつくない。
30分ほどで朝天門の埠頭に着く。大型船が何隻かイルミネーションに包まれて、夜の遊覧の準備をしている。人々が桟橋から船に乗り込むのが見える。筆者は、一番先に出航しそうな「朝天門」と看板が光る船の近くに見つけたチケット屋台のおじさんに、筆談と英語でその船のチケットはいくらだと聞くが、全く通じない。船に乗ってしまえばよいかと思い、「朝天門」号に乗り込もうとしたら、乗客はみんなチケットを持っていて、その場でお金を払えば乗れるというものではなさそうだ。それでも、次の出航が19:50というのを確認できたので、さきほどのチケット屋台に戻り、「朝天門号、19:50発」と筆談したら、その下に矢印で「20:30」と書いて返された。どうやら19:50発は満席らしい。40分の時間をつぶす場所はあたりに全くないので、待つ気もせず、対岸の夜景も少し見られたことだし、あっさり諦めて引き返すことにする。1人旅の気楽なところだ。
しかし、帰りはすべて登り坂なので、埠頭でタクシーをつかまえたい。1台空車が入ってきたのを見つけたが、「解放碑」と書いて筆談すると、運転手が舌打ちをして乗車拒否する。駅ターミナルなどのタクシースタンドで並ぶタクシー以外は売り手市場なのだ。ここは経済原理に従うほかはない。来た道をゆっくりと、しかし汗をかきながら戻った。往復4kmほどを1時間半ほどかけて歩いたおかげで食欲が増した。2晩前に泊まったインターコンチネンタルホテルの近くにセブンイレブンを見つけたので入ってみると、日本に劣らない品ぞろえだ。真露と菓子パンを買ってホテルに戻る。
この日の夕食は、ホテルの両隣にある火鍋食堂は屋内だし、客は皆グループだ。重慶料理の火鍋はたまたま成都で1回経験したので、もういい。1人で入っても気楽そうなのは昨晩入った[食混][食屯]大王だ。さきほど買った真露を持ち込む。メニューのなかで[又鳥]腿X飯13元というのを指さして注文し、屋外のテーブルに座る。ご飯料理は麺料理よりも簡単のようで、あっという間に出て来た。鶏の太腿肉、チンゲン菜炒めにご飯が一杯載った定食皿だ。辛くはないが量が多くて満足。屋外での安い飲み食いは気分がいい。
筆者が食べているテーブルに、地元のオッサン3人組があとから同席してきた。彼らは麺を注文し、煙草をスパスパやっている。比較的若めの男が筆者の飲んでいる真露の瓶を指さし、店のおばさんに「これはあるか」と聞いている様子。残念ながらこんな気の利いた酒は小吃屋には置いていない。他人が飲み食いしている対象に興味を示すのはいずこも同じか。男たちが去って筆者1人になったところに、店のおばさんが何か話しかけてきた。片言の中国語で「リーベンレン(日本人)だ」と言って、『歩き方』の重慶セクションを見せ、お皿を指して「美味」と筆談したら、ニコッとして喜んでくれた。
食後、腹ごなしにしばらく散歩する。ホテルのはす向かいにある重慶美術館(今日は月曜日で閉館していた)の前の広場では街灯のない真っ暗な中、数十人の年配者グループが中国風フォークダンスを練習している。次に洪崖洞を見に行くと、日曜日の昨晩ほどではないが、まあまあの人出。嘉陵江を見下ろす展望スペースはカップルが多い。9階に下りると、今日もHarps IrishPubは繁盛している。それにしても、如家酒店の周りは賑やかで飽きない。あまり安眠はできないが、面白い場所だ。