シンガポール3:イスカンダル計画① |
国境橋を歩いて渡り、入国に手間取っているうちにいつの間にか14時近くなり空腹。シティスクエアの1階にKFCとスターバックスがあるが外資系は高い。地元のベーカリーでサンドイッチとレモンティーを6.8リンギで購入。その前に20Sドルを同じ階の両替屋で換えると1Sドル=3リンギだった。つまりマレーシア通貨の価値はシンガポール通貨のちょうど3分の1だ。日本円で考えれば、1Sドル=75~80円だから、1リンギ=約25円と考えればよい。さきほどの簡易ランチは160円程度と、シンガポールより確実に安そうだ。
筆者の主な研究対象が大陸部の東南アジアにおける経済統合状況であるため、シンガポールとマレー半島先端部の経済統合状況はよく知らなかったが、今回はこの部分におけるキーワードが「イスカンダル計画」であることを、遅ればせながら認識した。香港に対する深センのような発展をイメージするものかもしれないが、広大な中国市場を後背地にもつ深センと市場が大きくないマレーシアのジョホール・バルでは条件はまったく異なる。
シンガポール在住でコンサルタントをしている友人が作成したプレゼン資料(2014年9月時点)から拝借して説明すると、以下の通り。
イスカンダル・プロジェクトは、マレーシア政府が経済開発戦略の一環として2006年に打ち上げた5つの開発プロジェクトの1つ。5つのプロジェクトは、北部回廊経済地域(ペナンを含むマレー半島の西側とタイ南部との経済統合?)、東海岸回廊経済地域(マレー半島の南シナ海側の大半を含むよう)、サバ州開発回廊、サラワク州再生可能エネルギー回廊、そしてイスカンダルプロジェクトだ。これらのなかで、地理的範囲が極端に狭く、すでに経済ハブとしての地位を築いているシンガポールと結びつくメリットが大きいイスカンダルプロジェクトが最も注目を浴びた。マレーシア政府はこの統合効果を当て込んで、2025年までにジョホールバルの人口が2005年の135万人から2025年には300万人に拡大することを目標にしている。 同プロジェクトはA〜Eの5つの開発地区に分け、Aのシティセンターが現在の市街地で文化・観光の中心地、Bのヌサジャヤが新行政地区および教育・観光・娯楽などの産業、Cの西開発区がタンジュンプルバス港を中心とした物流、国際調達関連産業、Dの東開発区が製造業、石油化学など、Eのセナス・スクダイ地区がセナイ空港周辺で物流、ハイテク産業、観光、IT産業、といった棲み分けをイメージしているようだ。シンガポールの約3倍の開発面積を想定している。
今いるA地区の他に、今回見て回れそうなのは上記のヌサジャヤ(Nusajaya)地区のみ。JBセントラル駅のバスターミナルはマレー語表示しかなく理解困難なので、バス移動はすぐに諦める。シティスクエアの北側にある地上階でタクシースタンドを見つけ、チケット販売ブースへ。ヌサジャヤ地区視察のあとセカンドリンク国境まで、と依頼すると、まずはヌサジャヤ地区(ヤマ勘で10km程度)まで36リンギ(1000円弱)を固定額で支払い、ヌサジャヤ地区に着いてからメーターを作動させて追加実費支払いだと説明された。高くはないのでこのアレンジを了承する。観光客をボろうという雰囲気は感じられなかった。
運転手は英語が流暢なうえに、チャーター利用客がうれしかったのか、効率よく走ってくれた。ヌサジャヤ地区のどこを回ればいいのかと聞かれたので、上述の資料から適当に固有名詞を並べた。運転手は走りやすいルートを考えてくれたみたいだ。JBセントラル駅からジョホール水道沿いのAbu Bakar通りを西へ走る。沿線は、シンガポール側の高級クラスにあたると思われる高層コンドミニアムの開発ラッシュ。Country Garden Danga Bay, Jade Palace(中国語の看板は「創想天止境・緑地控股」), Tropicana Danga Bayといった看板が左手に見える。運転手によれば、これらのほとんどが中国資本による開発だという。しかしショッピングモールやスーパーなどの商業施設の姿は見られず、人の気配が感じられない。
交通量がほとんどないのでタクシーは快適に飛ばし、15分ほどでヌサジャヤ地区に着く。遠景に見ると、忽然と姿を現した新都市という雰囲気がよくわかる(写真)。