タイ南部国境地帯9: アロースターからパダン・ブサール国境を越えてハートヤイに戻る |
翌3月14日、6:40ごろ、目覚ましで起床。身支度をして7時前にフロントでチェックアウト。朝食時間は7時からだが、すでにビュッフェの準備はできている。エスプレッソマシンがあり、やはり高級ホテルの朝食はありがたい。主食はナシゴレンン(焼き飯)、ミーゴレン(焼きそば)、カレー、お粥などで、さらにエッグスタンドに加え、インド系のチャパティスタンド?もある。多民族国家のマレーシアらしく、洋・中・印の料理がすべて揃っている。
ハートヤイ方面の列車について念のためにホテルフロントで聞いたが、スタッフは発着時刻を知らず、情報をとろうともしなかった。食事は立派なのに肝心の旅行者の便について無頓着なようだ。前日直接駅に行って確認しておいてよかった。
7:20ごろ、まだ外が薄暗い中、ホテルを出てアロースター駅までゆっくり歩く。この時間帯はまだ涼しくて歩くのが楽だ。10分ほどで着くとすでに乗客が10人ほど待っていた。チケット小屋が閉まっているので、ガードマンに聞くと、チケットは列車に乗ってから買うのだという。それならもっとゆっくり出てくれば良かったと思うが、列車は8時到着予定だというのでひと安心。待っている間に薄暗かった空がすっかり明るくなった。
8時過ぎ、ガードマンがホームへ上がる臨時ゲートを開け、乗客をホームへ案内する。できたばかりのホームよりもかなり北寄りの位置に、一時的に置いたベンチが並んでいて、そこで20人ほどの乗客が待つ。10分ほどで列車が入ってくる。ディーゼル機関車の12両編成だ。ガードマンが空いていそうな車両まで誘導してくれ、真ん中あたりの車両に乗り込む。席はガラガラで、筆者は車両前方の、座席が前向きになっている区画の左側の窓際席に座る。
5分後の8:20ごろ発車。クアラルンプールから来た列車であろうから、400~500km離れたアロースターまでで20分の遅れということは、タイよりも優秀だ。発車してしばらくアロースター郊外を左に見ながらゆっくり進む。意外に地形は平坦で、稲作地帯が広がり、そのなかに造成中の平屋建てのコンドミニアムが見られる(写真)。郊外を抜けるとスピードがあがる。マレーシア側にはタイ側に比べて規模が大きいゴムのプランテーションが多い(写真)。
線路はまっすぐ伸びていて、路床はコンクリートの枕木で線路が固定され、揺れはほとんどない。沿線の駅舎もできたばかりか、建設中のものが多く、この区間の鉄道は最近になって整備されたようだ。車両もそんなに古くなく、乗り心地は良い(写真)。バンコクからチュムポーンまで乗ったタイ車両の2等席に比べると、この日はグリーン車ほどの違いがある。このレベル以上の国際列車に乗れば、マレー鉄道の旅も快適なのだろう。
8:50、Arauという町の駅に5分間停車。アロースターからパダン・ブサール国境までの距離の約3分の2の地点だ。ここから真西に50kmほどにランカウイ島がある。
9:10、Bakit Ketri駅に15分ほど停車。近くに切りたった小さい岩山がいくつかあり、採石場の町になっているようだ。この駅の支線にはコンテナ貨車がたくさん停車している。なかなか再発車しないのは、国境越えのパダン・ブサール駅の1つ手前の駅なので、イミグレの都合にあわせて時間調節でもしているのかもしれない。
9:50、パダン・ブサール駅に到着。アロースターからここまで、約70kmに正味70分ほどかかったので、平均時速58kmhほど。
駅の手前の線路沿いにはコンテナヤードがあり、列車とトラックで貨物の積み替え作業をしているようだ(写真)。
ホームに降りると30人ほどの乗客が筆者と同じようにハートヤイへ向かうようで、係員からタイの出入国カードを受け取る(写真)。乗客の構成は半分ほどが華僑系マレーシア人で、残りがムスリムのマレー系マレーシア人と多国籍のバックパッカーといったところ。
駅の構内にマレーシアとタイのイミグレ施設が併設してある。10分ほど待たされたあと、係員がイミグレのドアを開け、乗客はぞろぞろとマレーシアの出国検査ブースに並ぶ。スムーズに出国スタンプを押してもらい、次に10mほど隣のタイの入国検査ブースに並ぶ。5分ほど待ったが、こちらもスムーズに入国スタンプを押してもらう。
誰かが再発車の時刻を聞いたようで、「40分」という声が聞こえた。タイ時間にあわせて時計の針を1時間遅らせ、タイ時間の9:40に再発車ということか。まだ時間があるので、乗客の多くが2階の食堂へ上がっていった。筆者は空腹ではないので、ホーム前方にあるトイレに行くだけ。
ホームの北端まで歩くと、筆者が乗ってきた列車(写真)のとなりのホームに、深緑色のボディの「オリエント急行」が停車している(写真)。シンガポールからバンコクまで一気に行くやつだ。その先頭車両はオープンエアになっていて乗客が風を切りながら眺めを楽しめるようになっている。食堂専用車両もあるだろうから、あれなら快適そうだ。
さらにホームの東側の道路が、さほど見たコンテナヤードから進んでタイ方向へ越境する貨物道路になっていて、続々とコンテナトレーラーが流れていく(写真)。昨日通ったサダオ国境も貨物車両が多かったが、このパダン・ブサール国境のほうが貨物物流は大きそうな印象。鉄道と道路のインターモーダル輸送の拠点だからであろう。
9:40(タイ時間)、先ほど乗ってきた列車がなぜか南方向へ走り去ってしまった。同じ列車に乗るものと思っていたので一瞬パニック。しかし、他の国際乗客は平然とホームで待っているので、筆者もおとなしく待つ。
10:20、ようやく列車が入ってくる。結局さきほどと同じ列車だ。今度は6両編成で、客車は後ろの3両だけのようだ。タイ国内を走るのに備え、需要に合わせて車両を再編成したのだろう。それにしても時間がかかるものだ。筆者は最後尾の車両に乗り込み、右側の窓側席に座る。しかし、なかなか発車しない。そろそろ喉が渇き、空腹にもなってきた。車内販売などなさそうだし、これなら食堂で水でも買っておけばよかった。まあ、少なくとも冷房が利いている車内に入れたのは良かったか。
11時ごろ、結局駅で2時間以上待たされたあと、ようやく再発車。パダン・ブサール駅から乗り込んできた私服の車掌が乗車券の確認に回る。筆者は「アロースターから乗ってきて、まだチケットを買っていない」と伝えると、100バーツだという。現金を渡しただけでチケットをくれなかった。車内で発券業務ができないのだろう。ルーズな運賃管理だ。
タイ領に入ると、マレー半島の多少尾根になった部分を南東方向へ抜けるため、起伏が出てきて、沿線の景色も車窓に雑木林が迫っていて、マレーシア側と比べて見晴しがはるかに悪い。線路の状態もよくないのか、揺れがあり、スピードが明らかに落ちている。マレーシア側との大きな違いは人口密度が高いせいか、線路沿いに低所得層と思われる人々の簡易家屋を頻繁に見ること(写真)。また、マレーシア側が線路と道路をほぼ立体交差させて踏切の数が皆無だったのに対し、タイ領内では踏切が多い。インフラ整備にかけられる政府の資金力の差であろうか。
11時半を過ぎると、起伏のない平地に出る。にもかかわらずスピードが出ない。線路の状態が良くないのであろう。
12:05、ハートヤイ駅到着(写真)。タイ側では途中の停車駅はなかったが、国境からの約45kmに1時間以上かかったので、レーシア側よりかなり遅い。アロースターからハートヤイまで鉄道ルートは出入国手続きを含めて合計5時間近くかかった。国境駅での待ち時間を除いても、実質走行時間は昨日のタクシーを乗り継いだサダオ・ルートと比べ、1時間ほど余計にかかった。列車の旅は安いのが取り柄だが、やはり時間が読めないのが難点だ。降り立った乗客は、列車が着いたホームから駅舎まで、線路に2回ほど降りて横切る(写真)。高架の歩道橋がないためだが、列車発着の頻度が低いため、これでも危険はないということか。
翌日はスンガイコーロク経由でマレーシア東岸側のコタバルへ行く予定なので、ハートヤイ・スンガイコーロク間の列車の便を英語付きの表示板でチェックする。午前中の便は朝6:30始発のほかに、バンコク方面から着く便が7時台に2本ある。4日前の経験から、始発以外はかなり遅れるので、列車で行くなら6:30発の始発がよい。ハートヤイ市内からコタバルまで国際ミニバスの便があればそれが一番便利なので、そちらと比べて交通手段を決めることにする。
駅から正面のThamanoonitnee通りを東へ300mほど歩き、ニパット・ウティット3番通り(街で一番中華色が強い通り)を右折し、400mほどで、宿泊先として目星をつけていたSakura GardenView Hotel(このホテルと近辺も中華色が濃い)に到着。フロントで部屋の空きを聞くと1050バーツ(朝食なし)の部屋があるというので、OKする。ここは部屋でWiFiが利用できる。12時半過ぎにチェックイン。15階の1505号室に入る。広い窓から繁華街を見下ろす眺めがいい(写真)。
部屋で一服した後、14時すぎに出かける。やはり、とても暑い。ニパット・ウティット3番通りで何軒か見つけた旅行会社で、ハートヤイからコタバルへの国際ミニバスはないかと聞きまわったが、クアラルンプールやペナンなどにはミニバスがあるが、コタバルまではないようで、スンガイコーロクまでバスか列車で行き、自分で国境を越え、マレーシア領に入ってから自分で足を見つけるしか方法がないということがわかった。ハートヤイのバスターミナルはやや離れているので、そこまで行って発車時間まで待つのが面倒なので、やはり翌日朝6時半の列車に乗ることにする。
14時半ごろ、2日前に見かけた「東方燕窩」に入り、せっかくなので名物のフカヒレスープ(400バーツ)とシンハービール(80バーツ)を注文(写真)。ライスは無料でつけてくれた。フカヒレの肉そのものはとくに味はわからないが、スープはうまい。ツバメの巣の蜂蜜漬けのような瓶詰め商品も売っていた。ツバメの巣といえば、今回のタイ南部とマレーシア国境地帯の旅では、街角のあちこちのビルでツバメの鳴き声をスピーカーで流しているのが聞こえる。ツバメを呼び込んで巣をつくらせ、食材にしようという作戦なのだろう。
食後歩こうとすると、まだ暑い。ひとまず街で一番近代的なビルに見えるLee GardensPlazaに入り、冷房が利いたビル内を一通り見て歩く。マクドナルド、Sweenson’sというアイスクリームチェーン、Sizzlerという焼肉チェーンなどが入っている。最上階の5階がシネマコンプレックスとなっていて、バンコクのサイアムパラゴンを小型にしたような感じだ。タイの地方主要都市にはだいたい類似の商業施設があり、地方でも中所得層の広がりを感じさせる。16時ごろ、まだ暑いので一旦ホテルに戻る。
19時ごろ、涼しくなってから出かける。翌日の列車の切符を事前に買っておいた方が安心なので、鉄道駅まで歩く。ところが、駅舎とホームはもぬけの殻で誰もいない。夕方の列車の発着がないのか、チケット窓口も閉まっている。無駄足だった。大きな都市の鉄道駅がこんな状態ということは、列車の旅客需要があまりないということか。
夕食のレストランを探す気力がないので、Lee GardensPlazaのマクドナルドでチキンバーガーセット(149バーツと意外に高い)、セブンイレブンでシンハービールと翌日朝用の菓子パンを買い、ホテルの部屋に戻った。15階の部屋の窓から、ハートヤイの夜景はなかなかのものだ。