メコン川上流域ほか18: ゴールデントライアングルからラオス側「金三角経済特区」を往復 |
1月21日、メコン川沿いの1290号線に面するゲストハウス付属のカフェでビュッフェ朝食。ここも宿泊客のほとんどが中国人だった。コテージ部屋の前の駐車場には雲南省ナンバーや「川」(四川省?)ナンバーの自家用車が停まっている。第4メコン国際橋が完成して、中国から観光バスだけでなく、自家用車までがチェンライ県に来るようになったのだろう。ラオスへの車両乗り入れはい問題ないとても、タイへも入れるようになったのか。
9時前、借りた自転車で出かける。まず南方向へ走り、昨日見た「金木綿集団」のドックヤードを再び見に行く。事務所棟をよく見ると、大半の部屋は空っぽで、角の部屋に金木綿集団が入っているだけのようだ。中国資本の建物なのだろうが、やや過剰投資のよう。ヤードでは昨日の夕方のアクションの続きが見られた。西双版納籍の船からは肥料と思われる深緑色の袋詰めの荷物のほか、ニンニク詰めの大きな袋がたくさん荷揚げされていて、その臭いが100mほど離れていても臭ってくる(写真)。一方、タイ側からは、中身が不明だが段ボール箱が船へと運び込まれていく。
そのあと、金木綿集団のドックヤードから300mほど北にある、やはり前日も見たタイ・ラオスの対岸の往来のみを対象とする船着き場に行く。中国人観光客が大勢いて、これからラオス側に渡ろうとする人達と、対岸から戻ってくる人達の両方で賑わっている(写真)。ここで対岸へのスピードボートを運行しているのはこれまた金木綿集団で、オフィスがある(写真)。
そこの窓口で聞くと、KingsRomans(カジノ)へ行く客なら国籍にかかわらず、ここから無料でシャトルしてくれるという。金木綿集団がカジノも経営しているのだ。その需要のために、ここにタイの簡素な出入国管理小屋ができたのだろうと想像する。同じ中国資本グループがラオスにおいてはカジノを中心とする金三角経済特区を開発し、タイにおいてはドックヤードを運営し、シャトルボートまで出している。以前読んだ報道によると、マカウでカジノビジネスに成功したZhao Wei(趙薇)という黒竜江省出身のビジネスマンがここのカジノのボスで、この辺りの両岸の観光業を一手に担っているようだ。雲南省との直接の国境町ボーテンでは、中国人ギャンブル客が借金を負ったために監禁されたという事件がきっかけで、中国当局がギャンブル客の渡航を制限したために、カジノビジネスが閉鎖に追い込まれた。しかし、ここの対岸の金三角経済特区はタイとの国境なので、対岸のビジネスをどう見るかは、タイ当局の責任が重いだろう。今のところ金木綿集団のビジネスを黙認もしくは協力しているようだ。
せっかくなので、金木綿集団のサービスを利用して対岸を往復することにする。Departureの看板がある小屋の女性係官に、対岸のカジノへ日帰りするだけだと伝えたら、あっさり出国スタンプを押してくれた。ここのイミグレもスタンプには「チェンセン」とあるだけで、独自の名前はついていない。
川への階段を下りると、KingsRomansと書いたスピードボートがちょうど待っていた(写真)。ほかのタイ人と中国人の乗客5人ほどと一緒に乗り込むと、座席は8席ほどと小さい。すぐに発進する。運転手も、着岸・離岸を助けるアシスタントも中国語をしゃべっているので中国人だ(写真)。
ほんの数分で対岸のラオスに着く。こちらの桟橋も金木綿集団専用のもののようだ。ラオス側のイミグレ施設は金箔ドームで(写真)、看板にはラオ語に加えてGolden Triangle International Check Pointという英語、と「金三角国際口岸」と中国語も併記されている。
中国人観光客にとっては、ファイサイから陸路でこの経済特区に来て、そのついでにシャトルボートを利用してタイ側のゴールデントライアングルを観光するというパターンと、チェンコーンから第4メコン国際橋を渡り、チェンライ、チェンマイ、ゴールデントライアグルを観光するそのついでに、シャトルボートを利用してカジノに立ち寄るというパターンと、どちらも可能だ。
さて、ラオス側のイミグレでも、特に問題なく入国スタンプを押してくれた。こちら側のスタンプには「Samliamkham」、つまりゴールデントライアングルという独自のゲート名がある。
前回ファイサイからここへ来たときの経験(「2012年南北回廊ほか」参照)から、メコン川下流のカジノまでは船着き場から2kmほどあることを知っているので、イミグレの男性に「カジノまでのシャトルはどこか」と聞いたら、すぐ表だと指さす。外に出ても、それらしき車両は見当たらない。ゴルフカートのような電気自動車に座っていた男性に「カジノ?」と聞いたら、自分は違うというジェスチャー。そのうちに白いセダンがイミグレ近くに乗り付けてきた。ボディにKings Romansと書いてあるので、これがシャトル便だ(写真)。カジノから帰ってきた客を数人降ろしたところで、運転手が水煙草(白昼堂々なので麻薬ではないだろう)を吸い始めたので、しばらく待った。
そのシャトル車でメコン川下流のカジノまで行く。途中のまっすぐな道路は交通量が少なく、整地中の区画もあるが、大半は野原の状態。5分足らずでカジノに到着(写真)。前回来たときに中に入って様子はわかっているし、今日はゲストハウスのチェックアウト時間までにタイ側へ戻りたいので、中には入らず周辺を見学する。広い駐車場には観光バスや黒塗りのリムジンなどが停まっている(写真)。ただし、平日のせいか、駐車場は閑散としていた。ロンジー(腰巻)を着た男性を見た。ディーラーやガードマンといったカジノ内部の仕事は中国人や地元ラオス人を雇い、それ以外の周辺の低賃金労働はミャンマー人を雇っているのだろう。
カジノ施設とメコン川にはさまれた広場には雑草が茂り、とくに何もないが、川沿いには中華とラオス食の簡易食堂が20軒ほど並んでいる(写真)。これらはカジノ客用ではなく、この周辺で働く従業員用のものだろう。
さて、船着き場からカジノまではタイミングよくシャトルを見つけたが、今度はカジノから船着き場まで戻るシャトルが見当たらない。そこで、食堂街の裏に見つけた川沿いの遊歩道をひたすら歩いて戻ることにする(写真)。途中、野原の真ん中に、モンゴルのテント家屋風のコテージが並ぶ宿泊施設がある(写真)。まだできたばかりなのか、人の気配はない。
遊歩道の散歩はずっと対岸のタイ側が見えるので、飽きずに歩ける。金木綿集団のドックヤード、同集団の船着き場、そしてボートブッダと、順番に見える。地元ラオス人の釣り船を見たかと思うと、欧米観光客を乗せたスピードボートの集団も見た(写真)。
10時半ごろ、イミグレ近くに戻ってきた。ここからさらに上流へ500ほど歩くと遊歩道が終了し、そこが、将来貨物船が着くことを想定したと思われる地帯になっている。特区方向からのスロープと、その延長上の土手がそのままメコン川へと降りていく(写真)。まだドックヤードにはなっていないが、小型船なら今のままでもここで貨物を積み下ろしできそうだ。ただし、ファイサイから60km離れているこの地点で、物流需要があるのかどうかはわからない。中国からの河川物流は第2チェンセン港か、ここのタイ対岸の金木綿集団のドックヤードで用事が済みそうだ。
11時ごろ、ラオス側の見学を切り上げて、金木綿集団のスピードボートに乗り込む。しばらく停泊したままで、乗客は筆者のみだが、運転手はウォーキートーキーで対岸と連絡を取っているようで、対岸で待つ客が数人たまるとこちらから発進して迎えにいく仕組みのようだ。幸い、5分も待たずに発進した。
11:10ごろ、タイ側に再上陸し、Arrivalの小屋で出入国カードをもらい、入国手続き。係官は笑顔ながらも、筆者のパスポートにかなりの数のスタンプが押されているので少し怪しんだのか、「タイでの用事は?」と聞くので、観光だと笑顔で答える。数分かかったが、問題なく入国スタンプを押してくれた。
結局、ほんの1時間半ほどで、タイ出国、ラオス入国、ラオス出国、タイ入国と、パスポートに4つスタンプが押された。その間、一銭も支出しなかったので、最も短く、最も安上がりな国際ボート旅行だった。