北インド14: バナラシその1 |
10月23日、寝台列車泊のあと、8時前にまわりの物音で目が覚める。通路側のカーテンを閉じたまま、自分のスペース内で着替えて通路に降りる。トイレで用を足しその外の洗面台で顔を洗う。隣の車両への出入り口にシャッターが下りていて車両間の移動ができないようになっている。自分のベッドに戻ろうとしたところで、くだんの台湾人青年と再会。同じ車両に乗っていたようだ。この列車の切符はどうやって調達したのかと聞くと、カジュラーホーで泊まったYogiGuesthouseに購入代行を頼んでチップを払ったという。前日あたりに購入できるということは、祭りの時期でもエアコン付きクラスの車両は一杯になることはないようだ。ますます、デリーでいろいろ細かく旅程を決めてしまわないのがぼられない秘訣だと感じる。
台湾人青年はバナラシに2泊する考えのようだ。筆者はその先の列車の切符を購入済みなのでバナラシは3泊と決まっている。バナラシ到着(予定は10:50)までにまだ2時間以上はあるので、ベッドに戻り横になる。(中略)
11:40ごろ、定刻より50分ほど遅れてバナラシ駅に到着(写真)。駅舎がかなり大きいので大きな都市だ。台湾人青年がカジュラーホーのYogiGuesthouseで知り合ったイタリア人カップルと一緒に、そこでバナラシで予約してもらったゲストハウスの迎えのトクトクに乗るというので、それに便乗させてもらう。
後部座席は3人で一杯なので、筆者は運転手の左横で座席をシェアするような形で乗る。ガンジス河(以下、ガンガー)沿いの旧市街中心地まで3kmほど、前半は交通量が多いものの、舗装道路はスムーズに走行。しかし、後半は旧市街に入って狭い路地を走る。スファルトが剥げた箇所をものともせず、上下左右に揺られながら走行。着いたのは、ダシャーシュワメード・ガートDashashwamedhGhat(ガートというのは沐浴場としてガンガー沿いにつくられた石段のこと)から数ブロック裏側の、YogiGuesthouseという、カジュラーホーの同じ名前の姉妹ゲストハウスであった。なるほど、こうやって客をつかんで自分のビジネスネットワークの中に送り込む仕掛けのようだ。台湾人青年とイタリア人カップルは部屋を見に上の階へ上がったが、筆者はエアコンとWiFi付きの部屋でなければダメだと言いうと、さきほど鉄道駅から運転してきたGopal (綴りは定かではないが、音はこんな感じ)氏が即座に宿探しガイドに変身し、筆者の持っている『歩き方』のバナラシの箇所を器用にめくり(各国のメジャーなガイドブックを研究している連中が多いようだ)、筆者が目星をつけてマークしているホテルをあっという間に把握し、彼がそれに匹敵すると考える宿泊所に強引に連れまわされた。
最初は旧市街の南2kmほどにある、日本人が奥さんだというSandhyaGuesthouseへ案内される。縦に細長いビルで階段が険しく、部屋が狭いので、日本人の奥さんをちらっと見かけ「こんにちは」と挨拶はしたものの、退散。次はその近くの、ガンガーが部屋から見えるP.G.Guesthouse。ここは玄関に行きつくまでが複雑な路地をうろうろしなければならず、飲食、買い物の便が悪そうなので、やはり退散。ここまではGopal氏がキックバックをもらえる紹介先とう感じ。彼の強引さに嫌気がさし、もういいから自分がマークしたホテルに連れて行けと主張したら、ガンガーに近いゲストハウスはだいたいごちゃごちゃした路地にあり、まわりが汚い感じだが、バナラシ駅と旧市街の中間にあるPallaviInternationalホテル(筆者がマークした宿泊候補の1つ)なら清潔だというので、そこに行ってくれと頼む。ところがそこへ向かう途中、ガンガーに並行に南北に走るSonarpuraRoad沿いの西側に、VishwanathHotel(まだオープンして1年目という)があり(写真)、Gopal氏は、ここが3つ星で部屋は清潔で、ガンガー沿いの散歩にも便利だというので、部屋を見せてもらう。正面は雑貨スーパーでその右手の奥に階段があり、そこを2階へ上るとフロントがある。フロント近くの106号室を見せてもらう。キングサイズベッドで内装は比較的新しく(写真)、まあこれなら快適に泊まれそうだ。ただし、小さいネズミが部屋から外へ出ていくのを目撃し、「ネズミがいるぞ」と指摘したら、部屋を開けてくれた男性スタッフが「No Problem」、という対応。うーん、彼らは日常いろんな動物と寝泊りしていて平気なのかもしれず、本当に問題ないと思っているのだろう。まあ、ネズミのサイズがハツカネズミ程度なので大きな脅威感はなく、部屋に住んでいるというわけでもないだろうし(ところが後に部屋に住んでいるかもしれないと思う羽目になる)、ゴキブリよりはましかと思う。
ともあれ、1泊いくらかと聞くと、フロントの女性スタッフが筆者に料金表を見せ、3000ルピーと書いてある。高すぎるので出ようとGopal氏に促すと、その女性は電卓を持ち出し、何泊の予定かと聞くので、3泊だと答えると、1泊2000ルピーにディスカウントしてきた。それでも高い感じがするので、やはりPallaviInternational へ連れて行ってくれとGopal氏に頼むと、今度はGopal氏が自分の面倒を減らしたいのか、じゃあこのホテルで1泊いくらなら泊まるのかと聞くから、1泊1500ルピーならいいと答えると、Gopal氏が男性スタッフに目配せをして、そのレートで大丈夫だということになった。結局言い値の半額まで下がった。寝不足での宿探しに疲れたところだし、このVishwanathHotelで手を打つことにした。前金として2泊分が必要だというので、3000ルピーをキャッシュで支払った。Gopal氏が得意顔でチップを要求する。バナラシ駅から都合1時間半ほどはトクトクで走ってもらったので、300ルピーでいいかと聞くと、右手を広げて500ルピーを要求する。部屋代値下げに貢献してもらったので、仕方ないかと思い、500ルピーを渡す。さらに、Gopal氏は、筆者の『歩き方』のマークを把握していて、サールナートSarnath(仏教の聖地の1つ)へ案内するのはいつがいいか、と聞いてくる。強引なところは気に入らないが、なかなか切れる奴だ。翌日は市街を歩くだけなので、翌々日10時にフロントで待ち合わせし、30分経って筆者が現われなかったら諦めてくれ、と言って別れた。
13時半ごろ、ホテル5階のレストランへランチを食べに行く。バルコニーからの街の眺めはまあまあだが、ガンガーまでは見えない。ガンガーの眺めを優先すると宿泊施設はごちゃごちゃした路地で利便性が悪く、衛生状態も悪そう。一方、利便性を優先するとガンガーの眺めを諦めなければならない。ランチはキングフィッシャー赤ラベル大瓶(200ルピー)、チキンと野菜のカレー煮(190ルピー)、ナン(25ルピー)を注文。暑い中を宿探しにウロウロしたのでビールはありがたかった。カレーの味はまあまあだったが、量が多いので、空腹にもかかわらず食べきれなかった。表向きはこのホテルはビールを出していないようで、請求書には “Red Bull”というエネルギー・ドリンクとして表示している。ビールは元気が出る赤ラベルなのRed Bullでもおかしくはないか。デリーで経験した“RefreshingWater”と同じカラクリだ。その後わかったのは、筆者がビールを注文したあとで、スタッフが近くの酒屋に冷えたビールを買いに行っていたようだ。のちほど近くに酒屋を見つけ(ビール売り場は通りからは見えない2階にある)、自分で買ってみると赤ラベルは180ルピーだった。そのときはレストランの手数料は20ルピーでかなり良心的なマージンだと思ったが、のちのブッダガヤーでは同じビールを100ルピーで買えたので、バナラシの酒屋の男たちによる外国人相手の詐欺価格だったと思う。
14時半ごろ、散策に出かける。『歩き方』によると「バナラシはおよそ3000年の歴史を誇るが、イスラム教徒による何度もの破壊を受けてきた。現在見られるガートの光景は、ムガル帝国が弱体化し、ヒンドウー教徒であるバナラシの藩王が実権を握る18世紀になってからのもの」とのこと。
SonarpuraRoadを1kmほど南へ歩いてガート巡り(沐浴用のガートは全部で60以上あるらしい)を目指す。この街も牛やヤギたちが放し飼いで勝手に路上を歩いている。人間の乗り物は彼らを器用によけて進む(写真)。バナラシの市街はこれまで見た都市と比べて格段に家畜密度が高そうで、そこらじゅうをのそのそと歩いている(写真)。ゴミ場を漁る彼らの風景ももはやお馴染みのもの。
まずは、SonarpuraRoadに看板が出ている最南端のガート、Assi Ghatへ到達。広々としていて見晴しがいい(写真)。そこから、『歩き方』が勧めるように「ガートからガートへ」歩こうとはしたが、SonarpuraRoadとガンガーに挟まれた地帯は路地が複雑怪奇に入り組んでいて、方向感覚を簡単に失ってしまう。結局、何度もSonarupuraRoadにいったん出て、看板が出ているメジャーなガンガーを中心にまわることになった。
次は南端から4番目のトウルスイー・ガートTulsi Ghatに到着。階段の勾配が急で、沐浴している人の数は少なかった。そこからは路地を迷い、動物や子供達はたくさん見るが、次のガートへのアクセスはなかなか見つからない。結局次に行き着いたのは、南端から13番目のチェート・スイン・ガートChet Singh Ghat。その次に行き着いたのは南端から16番目のシヴァーラー・ガートShivala Ghat。ここは階段が広々として、水牛たちが気持ちよさそうに沐浴していた(写真)。夜間照明の設備もあるので、イベント広場にもなっているようだ。
その次にたどり着いたのは南端から19、20、21番目のハヌマーンHanuman、プラーチーン・ハヌマーンPrahchinHanuman、カルナータカ・ステイトKarnatakStateの一続きになっている3つのガート。ここでは男たちの賑やかな沐浴風景が見られた(写真)。(中略)
ケーダールKedar、チョウギーChauki、クシェーメーシュワルKshemeshwar、マーナサローワルManasarowar、ナーラドNarad、ラージャーRajaという6つのガートが連続している箇所では夕涼みする大家族(写真)、大群の水牛を沐浴させて帰る牛飼い、ガンガーを眺める修行僧と一般人(写真)など、絵になる光景が見られた。
ガート南端から30番目のガートまでカバーしたところで、残りは翌日にまわすことにする。17時半を過ぎ、ホテルへ戻ろうとしたが、路地が複雑で結構苦労した。途中で、「ナマステ」と声を掛けてきた青年にメインストリートに出る方法を教えてもらった。
18時前にホテルに戻り、部屋で一服。小ネズミ君が部屋に入ってくるのを目撃した。ベッドの木製台座と壁の隙間に生息しているようで、チョロチョロとその隙間から顔を出す。小さいのが1匹だけだからまだ気にしなければ済む程度だが、ベッドの下に巣をつくっていて家族がいたら大変だ。その後、この1匹以外を見ることはなかったので、部屋を換えてもらうほどではなかった。
19時過ぎ、ホテル5階のレストランで夕食。キングフィッシャー赤ラベルとHunnan Noodle(120ルピー)を注文。無料でパパルとソース3点が出てきた。鮮やかなライトグリーンのソースが、グリーン・チリとヨーグルトが混ざっているようで気に入った。食後にマサラチャイ(20ルピー)を頼んだら、ショウガ入りでおいしい。他に客はインド人老夫婦1組だったので、ここで食べる客は少なさそうだ。それでも冷房が利いていて筆者にとってはありがたい。